411-8540
静岡県三島市谷田1111
国立遺伝学研究所 系統生物研究センター
酒井則良

Noriyoshi Sakai, Genetic strains Research Center, National Institute of Genetics, 1111 Yata, Mishima 411-8540, Japan


プロトコール

ゼブラフィッシュの維持管理

水槽・水換え

市販の上面濾過装置を備えた水槽、あるいは各水槽→濾過槽→殺菌灯→各水槽のような循環系を備えた小型魚類用飼育システムで、流水で飼育する。濾過槽ではフィルターによる物理的濾過と濾材による生物的濾過を行う。物理的濾過によって食べ残した餌や糞を濾し取り、生物的濾過によって有害なアンモニアをバクテリアの働きによって亜硝酸→硝酸へと変えている。飼育水は毎日全水量の5~10%程度を交換するか,2,3週間ごとに3分の1程度の水を交換する。水面上に跳ね出して水槽から跳びだしてしまうことがあるので,水槽には網やプラスチック板を上蓋として置く。1 L中に5匹までの高密度で飼育可能であるが、高密度の場合エアレーションをする方が良い。

飼育水

水道水を数日汲み置いて塩素を抜いてから使用できるが,地域によっては水道水の水質が合わない場合がある。その場合には,伝導度が300μS程度になるよう人口海水塩を逆浸透水に溶かし,pHが6.8-7.5になるように炭酸水素ナトリウムで調整して飼育する。

水温・光

20~30℃の水温で生存可能である。産卵させる場合には25~28℃に維持するのが好ましい。光のサイクルは明期14時間,暗期10時間とする。

給餌

ある程度の産卵数を維持するには,1日数回給餌する。餌には粉餌(テトラミン)とブラインシュリンプを併用するのが一般的である。

自然採卵の方法

ゼブラフィッシュの雌1個体は適当な飼育条件下で3~5日に1回産卵する。採卵前日の夜に、婚姻色で赤みを帯びたオスと腹部が膨らんで産卵直前のメスを同じ水槽に入れておくと、翌朝産卵する。産卵後メスの腹部はいったん小さくなり、次の産卵に向けて再び膨らんでいく。これを周期的に繰り返すため、腹部の大きさを注意深く観察することで翌日に産卵する雌を予測できる。
卵は卵殻の直径が1ミリ程度の沈降卵であり,水槽の底に沈む。平らな底では成魚が簡単に卵を見つけて食べてしまうため,それを防ぐ必要がある。底を抜いた水槽に,卵は通過するが成魚は通れない網目の網を張り,それを通常の水槽の上に重ねて飼育水で満たし、そこで産卵させる。別の方法として,水槽の底にビー玉を敷き詰めておく方法がある。産卵された卵はビー玉の隙間を通って水槽の底に沈み,成魚による被食を避けることができる。卵を集める際には,水槽の底から卵も含めてサイフォンで吸い取る。

人工授精の方法

次の器具を準備する。

器具:ピペット,10 cm シャーレ,1.5 mlチューブ
麻酔液:~0.2 mg/ml 3-Aminobenzoic acid ethyl ester溶液。4 mg/mlのストック溶液(1 M Tris (pH 9)でpH 7に調整)を作製し,4 ml程度を約100 ml飼育水に加える。冷蔵庫で1~2週間程度保存可能。魚の様子を見て麻酔がかかり難いようなら,濃くして使用する。
Hank’s 溶液:Hank’s Premixと417 mM NaHCO3を99:1の割合で混ぜた溶液。用事調整する。

Hank’s Premixの作り方は以下であり,冷蔵庫で数ヶ月保存可能である。ストック溶液は室温で保存可能である。

Stock solution #1 (1.37M NaCl, 54 mM KCl)    1 mL
Stock solution #2 (25 mM Na2PO4・7H2O)    0.1 mL
Stock solution #4 (130 mM CaCl2)            0.1 mL
Stock solution #5 (100 mM MgSO4・7H2O)    0.1 mL
蒸留水                                     8.6 mL

手順を以下に述べる。2.~7.が採精、8.~10.が採卵、11.~14.が媒精の手順である。

  1. 前日の夜から雌雄を同じ水槽に入れ,翌朝光が入った直後,産卵前に雌雄を分ける。
  2. 雄を一匹麻酔液に入れ,麻酔をかける。麻酔がかかると鰓ぶたの動きが緩慢になってくる。
  3. Hank’s 溶液に浸す。
  4. Hank’s 溶液に浸した雄を取り出し,乾いたキムワイプで水分を除く。
  5. シャーレの上に仰向けに置き,左手の指で泌尿生殖口のやや前方を軽く抑える。泌尿生殖口から白い精液が出てくるので,それをピペットで吸い取り,0.1 ml程度のHank’s 溶液を入れ氷上で冷やしてあった1.5 mlチューブに懸濁する。氷上で1時間程度は保存できる。
  6. 雄は麻酔を覚ますために飼育水へ戻す。
  7. 2.~6.を繰り返し,数匹分の精子を採る。
  8. 雌1匹を雄の場合と同様の手順(2.~4.)で用意する。
  9. シャーレの上に雌を横たえ,指で腹部を前から後ろへと軽くしごき,成熟未受精卵を泌尿生殖口から押し出す。
  10. 雌は麻酔を覚ますために飼育水へ戻す。
  11. 9.で得た成熟未受精卵に5.で採取した精子懸濁液を数滴かける。精子懸濁液は,精子が沈んでいるので,軽く混ぜてから使用する。
  12. 未受精卵にまんべんなく滴下した後、シャーレを揺らして静かに混ぜる。
  13. 精子とよく混ざった成熟未受精卵の周りに,飼育水を数滴たらし,シャーレを揺らしながら手早くかき混ぜる。飼育水により精子が活性化し,受精が起こる。
  14. 卵殻が上がってきたら,卵が乾かないよう飼育水を十分量入れ,飼育する。

孵化までの飼育法

ゼブラフィッシュ胚は23~33℃の水温で飼育できる。水温が高いほど発生は早くなる。水温28.5℃の飼育条件下で受精後3日目に孵化する。卵殻はやわらかいため,受精卵を扱う際にはスポイトを用いる。

胚は飼育水で満たしたシャーレで飼育する。水カビが発生しないように飼育することが重要であり,そのためには最初に未受精卵・死卵・ゴミの除去を行い,その後も一日一回,飼育水の交換と死卵の除去を行う。飼育水には0.00005~0.0002%のメチレンブルーを入れておくと水カビが生えにくい。

孵化後の飼育法

稚魚は孵化した後も1~2日は遊泳せず、採餌も行わない。孵化後2日目(受精後4日目)くらいから遊泳する個体が現れ,採餌も始めるため、給餌を開始する。この時期に十分量の餌を与えないと,後にどんなに餌を与えても発育が悪く,場合によっては餓死することさえある。孵化後5日目くらいまでは,稚魚の口が小さくブラインシュリンプを食べることができないため,ゾウリムシや乳鉢で細かく砕いた粉餌を与える。その後,徐々にブラインシュリンプも与え、量も増やしていく。ほぼ全ての個体がブラインシュリンプを食べるようになったら,ゾウリムシは必要ない。

ほとんどの個体が遊泳するまでは止水で飼育し,定期的に水換えを行うのが好ましい。流水開始時には,水が滴下する程度の流水量に調節し,稚魚の成長にあわせて徐々に流量を増やす。順調に育てば,3ヶ月程度で成熟する。

採餌を始めた段階の近交系やアルビノはゾウリムシを捕食する能力が低く、注意を要する。経験的に、シャーレ内の稚魚の密度をあまり高くせず(50~80匹/150mm シャーレ)、ゾウリムシを多めに与えて水換えをこまめにする方が生残率が高い。

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ゼブラフィッシュ初期胚の細胞培養

初期胚(受精後3時間以降)の細胞は以下の方法で培養可能です。

Embryo extract

ゼブラフィッシュ細胞の増殖に効果がある。3日目のembryoから作製。

  • 1日目、シャーレに受精卵を集める。飼育水の劣化を防ぐために未受精卵を取り除いておく。
  • 1日一回、あるいは朝、晩に飼育水を交換(シャーレ内の卵の密度に依存)。
  • 3日目、embryoを計数(それほど正確でなくてもよい。誤差10%程度で問題なし)。

0.5%ハイター滅菌水に2分浸し除菌、Fish Ringerで2分間2回洗浄。
ダウンスホモジナイザーに集め、Fish Ringerをできるだけ取り除いた後、ホモジネート。さらにL-15 (invitrogen) をおよそ100匹/mlになるように加えて、10回ストローク。15mlコニカルチューブに分注して-20℃で冷凍保存。

培養液

ストック:200mM L-glutamine (invitrogen), 5000U/ml penicillin - 5000mg/ml streptomycin (invitrogen), 10mg/ml kanamycin sulfate (invitrogen), fetal bovine serum (FBS, メーカーは問わない), 分注して‐20℃で冷凍保存。5% bovine serum albumin (BSA fraction V, Sigma, L-15に溶かす), 800mM CaCl2 (和光, MilliQ水に溶かす), 1M Hepes (pH 7.9, 和光, MilliQ水に溶かす), それぞれ0.2mmフィルターに通した後‐20℃で冷凍保存。

Embryo extractが20匹/mlになるよう最終量を算出して、L-glutamine, penicillin-streptomycin, kanamycin sulfate, Hepesを1/100量加える。1/10量のBSAと1/1000量の CaCl2, 3% のFBS, 20%の滅菌MilliQ水を加える。さらに、28℃で融解したEmbryo extractを2400 g X 15分遠心した後、上清をシリンジトップフィルター(0.2mm)に通して加え、最終量までL-15でメスアップ。

初期胚細胞の培養

試薬:Holtfreter’s solution (H soln, 0.1g CaCl2, 3.5g NaCl, 0.05g KCl, 0.2g NaHCO3 /liter, HClでpH 7.6に調整) 用事調整して0.2mmフィルターに通す。30mg/ml Protease (type XIV, Sigma, MilliQ水に溶かす)、500U collagenase (L-15に溶かす)、それぞれ0.2mmフィルターに通した後‐20℃で冷凍保存。0.05% trypsin-EDTA (invitrogen), 分注して‐20℃で冷凍保存。PBS, オートクレーブして室温保存。0.1% gelatin (Sigma), PBSに懸濁後、オートクレーブ、冷蔵保存。

ふ化前の胚の細胞を培養する場合は細胞解離の直前に、ふ化後の胚の細胞を準備する時は卵膜がある間に、0.5%ハイターH solnに2分浸し除菌する。H solnで2分間2回洗浄後、H soln 10mlに約100mlのProteaseを加えた溶液に浸す。半数近くの胚で卵膜が破れた時点で、H solnで5回洗浄した後、目的の発生段階まで飼育する。数時間以上飼育する場合はH solnに5U/ml penicillin - 5mg/ml streptomycinを加えておくとよい。

受精後16時間までの胚であれば、15mlコニカルチューブにCa-free H solnを10ml入れて、その中に胚をパスツールピペットで空気に触れないように移し、数回ピペッティングすることで細胞を解離できる。解離後120 g X 10分遠心で細胞を回収する。16時間以降の胚では、1.5mlのcollagenase中で28℃、2時間(20分に一度ピペッティング)で細胞を解離できる。解離後、約7倍量のL-15を加えて懸濁、120 g X 10分遠心で細胞を回収する。遠心中に35mmディッシュにgelatin溶液を1ml程度加えて1分間程度放置した後、捨ててディッシュをgelatinコートしておく。回収した細胞を培養液1.5mlに懸濁してディッシュにまく。

翌日には細胞がディッシュに接着している。3日に一度程度培養液を交換し、細胞がコンフルエントになったら、ディッシュ1枚分の細胞を2枚に植え継ぐ。培養液を取り除き、PBSで洗浄後、35mmディッシュであれば100mlのtrypsin-EDTAを加える。顕微鏡で観察して、細胞の周辺部分がはがれ始めたら3mlの培養液を加えて反応を止める。ピペットマンでまんべんなく培養液をディッシュに吹き付けて細胞をはがし、懸濁して、ディッシュ2枚に分注。ゼブラフィッシュの細胞はトリプシンに対して弱いため、トリプシン処理時間をできるだけ短くすること。

※精原細胞から精子への培養法はSakai N. Methods 39, 239-245 (2006) “In vitro male germ cell cultures of zebrafish” をご参照ください。

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