あれこれ
1.ゼブラフィッシュの精巣構造
ゼブラフィッシュの精巣は基底膜(basement membrane)でかこまれた多数の精小嚢(seminal lobule)によって成り立っています(図7)。外側にはステロイド産生細胞であるライディッヒ細胞(Leydig cell)などの間質細胞や毛細血管が認められ、内側に種々の発達段階の生殖細胞がセルトリ細胞(Sertoli cell)で囲まれた状態で認められます。このセルトリ細胞で囲まれた構造をシスト(cyst)と呼んでいます。精原細胞(spermatogonia)がシスト内に一つだけ存在しているものをA型精原細胞、複数の精原細胞の場合をB型精原細胞と区別しています。哺乳類ではヘテロクロマチンの有無によって精原細胞をA型とB型に区別していますので、魚とは指し示すものが違っているかもしれません。B型精原細胞は第一精母細胞(primary spermatocyte)、第二精母細胞(secondary spermatocyte)、精細胞(spermatid)へと分化していきます。これらはブアン固定ヘマトキシリン染色によって核の状態で形態的に区別可能です。精子形成を活発に行っている精巣では多量の精子がlobuleの中心部分に認められます。
2.ゼブラフィッシュの精子形成
ゼブラフィッシュの精子形成は、哺乳類とよく似ており、精原幹細胞(spermatogonial stem cell)によって維持され、分化型精原細胞が体細胞分裂により増えた後、精母細胞の減数分裂、精細胞の変態を経て精子が出来上がります。哺乳類と異なる点はこれらの発達がセルトリ細胞で囲まれたシスト内で起こることで、それぞれのシスト内の生殖細胞は1つの精原幹細胞に由来するクローンです。上記の形態上のA型精原細胞、B型精原細胞と機能上の精原幹細胞、分化型精原細胞の関係ですが、おそらく幹細胞機能はA型精原細胞(あるいはその一部)が担っているようです。しかしながら、A型精原細胞が均質な幹細胞の集団なのか、あるいはA型精原細胞の中に幹細胞機能をもつものと持たないものがあるかといった点についてはまだ分かっていません。また、私たちはゼブラフィッシュのpromyelocytic leukemia zinc finger (Plzf; マウスで未分化精原細胞のマーカーとして知られている) に対する抗体を作製して調べたところ、8細胞まで分裂した精原細胞で発現していることがわかりました(図8)。この8細胞までのB型精原細胞に幹細胞機能があるかについても今後詳細に調べていく必要がありそうです。